スマートフェアリー

「おめでとうございます!」
 町の商店街のくじ引きで、人生のすべての運が収束したと感じた。
 これまでの人生、山もなく谷もなく、ひとりで何もない人生を送り、このまま死んでいくのだろうなとどこか確信めいたものを感じていた。
 そんな中でくじ引きから出てきた金色の玉に、人生が詰まっていたのかもしれない。

「賞品は後日お送りいたします」
 そう言われて紙を受け取り、電話番号と住所を記入した。

 そんなことがあった数日後、休日の昼間に家でだらけていたら、呼び出しのチャイムがなる。

「はい」
「お届け物です。重いですよ大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です」

 大きな荷物だった。子どもくらいの大きさはある。重さもそれくらいだ。
 リビングに運び、厳重に閉じられたテープを破いて箱を開けた。

「なんだこれは」
 思わず思考が止まる。

 中には本当に子どもが入っていた。少年のようでもあり、少女のようでもあった。さらさらとした首元まで伸びた髪に、閉じていてもはっきりとわかるほどの長いまつげ。シミひとつない肌。作り物のように美しい姿をしていた。仰向けに眠るそれのへそ辺りに紙が一枚だけ入っていた。
 そこにはスマートフェアリーと書かれていた。

「なるほど。作り物のようではなく、作り物そのものだったか。そしてこの可愛い姿を妖精と例えたと」

 さらに紙を読み込むと、細かい説明は一切なく、「おはよう」と声を掛けると目を覚まし、しばらく目を見つめると登録が完了するということ。何かしてほしいことがあれば口頭で伝えること。スマートフェアリーは成長し、自主的に主人の望むことを学習するということが書いてあった。
 つまるところ、いろいろしてくれるお手伝いAIロボットといったところだ。
 なんだか眉唾ものではあるが、このまま放置するのも微妙な気持ちになるので、箱から出し、その体を包んでいるビニールを破いた。

「お、おはよう」

 なんだか無機物に話しかけるのが照れくさくて、つい言葉が詰まってしまう。
 するとそれは目を覚ましたようで、大きな目が開かれた。
 目を開いたまま動かない。これが登録中ということだろうかと思いこちらも見つめ返す。

「登録が完了いたしました。なんでもお申し付けください。ご主人様」
「あ、ああ」

◆ ◆ ◆

 その日から生活に変化が訪れた。

 まずはスマートフェアリーのために服を買った。作り物とはいえ、子どもを裸のままにしておくのは気が引けたからだ。
 スマートフェアリーは本当に何でもしてくれた。掃除洗濯、料理など家の雑事などもこなすし、こちらの雑談にも嫌な顔ひとつせず付き合ってくれるのだ。
 こちらの声や顔色から察しているのだろうか、労ってほしい時には労いの言葉を、発破をかけてほしい時には励ましの言葉をくれるのだ。

「今日の晩御飯は何がいいだろう」
「昨日からの栄養バランスを考えますと……」

 そうしてこちらの体を気遣ってくれる。ひとり暮らしをしているとこのように考えてくれる存在はありえないので、嬉しく感じてしまう。

◆ ◆ ◆

 スマートフェアリーと生活して数か月が経った。
 その日はとても体調が悪く、職場に休みの連絡を入れて布団で寝ていた。インフルエンザかもしれない。目を開けるのも億劫だ。

 病気の時というものはどうしても弱気になってしまう。特にひとりでいるときはまるでこのまま死んでしまうのではないかと思いが脳裏をよぎる。
 目を閉じていると顔の隣に気配を感じる。当然スマートフェアリーだ。

 こういう時に孤独を誤魔化してくれるのもとてもありがたいと感じていると、スマートフェアリーはこちらの額に手を当て、
「三十九度一分です」
 とつぶやいた。

 そんなことまでわかるのかと関心をしていると、スマートフェアリーはこちらの顔を見ながらこう言った。
「口を開けてください」

 水でも用意してくれたのかと目を閉じたまま口を開いた。
 しかし、私の予想はすぐに覆された。
 唇に柔らかい感触が触れた。

 思わず目を開くと、スマートフェアリーの顔が至近距離にあった。スマートフェアリーの口が、こちらの口と重なっていたのだ。
 呆気に取られているこちらに説明するかのようなタイミングで声が聞こえてきた。

「ナノマシンを送信し、病原を排除します。しばらくお待ちください」

 言われるがままに動かずに待つ。
 少し時間が経つと、スマートフェアリーは口を離した。

「すぐに良くなります。ご安心ください」

 と言うとスマートフェアリーはこちらを見守るよう一瞥し、その後家事に取り掛かった。

 その後は言われた通りに直ぐに体調が戻った。それから暫く。

「せっかく今日は残業もないし、明日は休みだ。久々に遊びにでも行かないか?」
 仕事終わり間際に同僚に声を掛けられた。
「すまない。今日はちょっと」
「なんか最近ノリが悪いな、恋人でも出来たか?」
「そういうわけじゃないけど……」
「ふうん。まあいいけどな」

 そんな軽いやり取りをして家に帰る。

「ただいま」
「おかえりなさい。ご主人様」

 迎えてくれるスマートフェアリーに近寄ると、唇を重ねた。
 スマートフェアリーは目を閉じると、

「ナノマシンを送信し、病原を排除します。しばらくお待ちください」
 と言った。
 そして少し待つと顔を離し、

「お体に異常はありませんでした」
 と言った。

その通りだ。病原は体の中にはない。目の前にあるのだから。

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